業績悪化に対応するための経営合理化の一環として、賃金調整をすることは許されるのか?

経営合理化目的の賃金減額は労働契約の要素の変更であり、同意を必要とする。また、整理解雇回避の方策であっても、一方的な減額はなし得ず、非協力的な組合の対応にも権利の濫用性はないとされた事例
(平成6.9.14 東京地裁判決 CM銀行事件)
判決の要点
業績悪化と合理化の必要性
本件賃金調整は、被告銀行の業績悪化に対応するための合理化の一環として実施されたものである。
昭和60年代以降の全世界的規模の金融界の再編成を発端として、銀行業務を巡る環境が厳しくなり、被告銀行の資産内容も平成元年度以降急激に悪化し、同年末の資産規模は全米で第二位であったにもかかわらず、時価総額では大手10行中最下位にまで転落し、信用度の格付けも昭和59年度には最上級のトリプルAであったものが、平成2年9月には最下位寸前にまで転落し、このまま放置すれば買収・合併の危機が懸念されるまでに至ったというのであるから、これに対処するため経費削減を図るという本件合理化は、被告銀行の方針として自主的に決定し、実施すべき事柄である。
賃金の労働契約的要素と一方的不利益変更の不可
1.本件合理化の一環としての賃金調整は、各原告の賃金を被告銀行が各原告の同意を得ることなく一方的に減額支給するという措置であって、各原告の賃金基準は原告ら所属労働組合との間の労働協約によって定まっていたのであるから、この内容は各原告と被告銀行との間の労働契約内容となっていたということができる。
2.ところで、労働契約において賃金は最も重要な労働条件としての契約要素であり、これを従業員の同意を得ることなく一方的に不利益に変更することはできないというべきである。
この意味において、本件賃金調整は、被告銀行が各原告の同意を得ることなく、一方的に労働契約の重要な要素を変更するという措置にでたのであるから、何等の効力も有しないというべきであり、このことは、本件賃金調整に被告銀行主張の合理性が存したとしてもことなるところではない。
賃金規定を根拠とする主張の当否
被告銀行は、本件賃金調整は賃金規定6条に根拠を有すると主張するが、同条は「昇給」について定めているのであって、賃金を減額支給することについては何等言及していないばかりか、被告銀行が従業員の賃金をその同意なく一方的に減額するということは、当該従業員にとって一種の不利益処分であるから、明確な定めが必要であるというべきところ、この点に関しては明確な定めをしていないから、同条は本件賃金調整の根拠規定とはなり得ず、したがって、被告銀行の上述主張は採用できない。
整理解雇回避目的の賃金減額の許容性・・・否定
1.被告銀行は、原告ら相当数の者が対象となった犠牲の大きい整理解雇を回避するためのやむを得ない措置である旨主張する。
しかしながら、被告銀行は本件合理化の一環として整理解雇という措置を選択することなく、本件賃金調整という措置を選択したのであるから、この措置の有効性のみが問題となるのであって、整理解雇を選択しなかったことをもって本件賃金調整を有効とすることの根拠とすることはできない。
また、整理解雇の有効性についての判断がなされ、この有効性が確定してはじめて本件賃金調整よりも整理解雇が原告らにとって犠牲が少ない措置であるということが言えるのであって、整理解雇という措置がなされていないのに、これとの対比で本件賃金調整が原告らにとって犠牲が少ない措置であるなどということもできない。
2.さらに、被告銀行は、使用者は企業再建のための必要性が認められる場合には整理解雇が認められているのであるから、これを回避するための本件賃金調整措置は就業規則に明文の規定がなくとも否定されない旨主張する。
なるほど、使用者は解雇権の濫用にわたらない限り、労働者を解雇することができる(民法627条、労働基準法20条)が、このことは、当事者の一方に継続的雇用関係を長期間拘束することは不当であることから認められているのであって、本件賃金調整はその趣旨、要件、効果が全く異なり、これを単純に比較して、前者が認められるからその後者も認められるべきであるとすることには論理の飛躍があって、到底首肯することはできない。
ましてや、本件賃金調整は、労働契約内容の賃金という重要な要素を各原告の同意を得ることなく一方的に変更するものであるから、明確な根拠を有しなければならず、使用者は労働者を解雇する権利を有することをもって、この根拠とすることはできない。
組合の賃金調整非協力的態度と原告らの本訴請求の権利の濫用性
被告銀行は、原告ら所属の3組合は、本件賃金調整に非協力的であったから、各原告の本訴請求は権利の濫用である旨主張する。
しかしながら、原告ら所属の3組合が本件賃金調整に対し如何なる対応をするかは当該組合の自主的に判断されるべき事柄であって、組合の対応が非協力的であったとか、解雇に反対していたことをもって非難することはできない。
ましてや、各原告の賃金が減額されるという措置であるから、そもそも各原告が自主的に判断すべき事柄であって、組合が如何なる対応をしたかは関係のない事柄である。
この点に関する被告銀行の主張も採用できない。
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