希望退職優遇制度により対象期間の途中で退職した場合には、在籍規定により不支給になるのか?

希望退職優遇制度の適用により、対象期間の途中で退職した場合について、その意思で制度の適用を申請したものであり、継続勤務要件には合理性があるから、請求権を取得しないとされた事例
(定年退職等退職日の選択権のない場合についての考え方に言及した事例)
(平成15.2.12 神戸地裁判決 コープK事件)
判決の要点
事件の概要
1.被告生活協同組合コープK(被告生協)は、消費生活協回組合法に基づき設立され、平成12年3月31日現在、正職員5,038名、嘱託・パート職員等10,850名を雇用している。
2.被告生協は、平成12年1月28日付けで、同年4月1日現在、満45歳以上・勤続20年以上となる正職員2,003名に対し、「希望退職優遇制度(案)」を配布した。
そして、被告生協は、同年2月22日、労働組合との間で、経営合理化策の一環として、希望退職優遇制度に関する協定を締結(本件協定)した。
【協定概要】
@年齢は満60歳とみなす。
A勤続は満60歳とみなす。
B退職事由は定年扱いとする(乗率2.0)。
C退職日は原則として平成12年4月15日とする(前倒し退職希望は考慮する)。
3.原告労働者47名は、この制度の適用を申請し、2名が同年3月15日、残る45名が同年4月15日に退職した。
4.被告生協の就業規則では、
@満60歳に達した月末をもって定年退職とする
A賞与は毎年2回、生協事業の状況及び職員の勤務状態を考慮して支給する
B賞与は、賞与支給対象期間を継続勤務し、対象期間後に退職した者に支給する
C夏季賞与の支給対象期間は前年11月16日〜当年5月15日、支給日は7月10日と定めている。
5.被告生協では、平成2年頃から、2月ないし4月の末日に定年退職した者に対しても、月割計算で夏季賞与を支給してきたが、就業規則には明文化されていない。
6.被告生協は、本件希望退職優遇制度における夏季賞与の取扱いについては説明をしておらず、賞与支給対象期間前に退職したため、原告らには夏季賞与を支給しなかった。
継続勤務要件に関する原告労働者の主張の概要
1.在籍要件については、従来その効力が争われてきたが、近時の判例は、
@任意退職者は退職時期を選ぶことができ、
Aまた、企業が賞与支給に当たり、労働意欲の向上や確保、勤務の継続ないし確保等に期待することは不合理ではない
として、在籍要件を無効ではないとしている。
そうすると、在籍要件(継続勤務要件)は、定年退職、死亡退職、整理解雇等、任意に退職時期を選ぶことのできない退職者に対しては、労働者の意思によることなく賞与請求権を一方的に剥奪することになるから、その合理性は認められなくなる。
2.本件制度は、労働者において退職の時期を選ぶことができないものであり、この意味では、在籍要件(継続勤務要件)は、本制度によって退職する者が有する賞与に対する期待権を一方的に剥奪することになるから、原告らに対しては無効である。
継続勤務要件に関する原告被告生協の主張の概要
1.賞与の支給要件については、支給対象期間を継続勤務し、かつ、支給日に在籍していることを要する支給日在籍要件と、賞与支給対象期間を継続勤務すれば、支給日前に退職しても支給される継続勤務要件とがあり、賞与の支給条件としては、支給日在籍要件の方が厳しい内容となるが、近時の判例が支給日在籍要件の有効性を認めていることは原告らも認めるとおりである(平成8.10.29地裁判決、昭和57、10.7最高裁判決)。
2.被告生協では、夏季賞与の支給対象期間を継続勤務すれば、5月16日以降退職した者についても全額支給しており、在籍要件よりも緩やかな支給条件を定めているもので、上記判例に照らし、被告生協の継続勤務要件が否定される理由はない。
3.本件希望退職者は、退職日が4月15日であって、継続勤務要件を充たさないことを承知の上で、自身の自由な判断に基づき本件制度に応募したものであって、一方的に賞与請求権を剥奪したという評価は全く正当でない。
裁判所の判断
1.就業規則及び弁論の全趣旨によれば、夏季賞与を請求するためには、夏季賞与の支給対象期間を継続勤務し、かつ、同期間中の勤務状態等に対する人事考課により賞与支給ランク別係数が定められ、賞与の算定基礎給の額が確定するをとを要するものと解される。
これを本件についてみると、原告らは、いずれも夏季賞与の支給対象期間満了前である平成12年3月15日又は同年4月15日に退職したものであり、継続勤務要件を充たさないから、原告らの労働契約に基づく夏季賞与の請求は、いずれも理由がない。
2.原告らは、本件制度は、労働者が退職の時期を選ぶことができないものであり、この意味では、継続勤務要件は、本件制度によって退職する者の賞与に対する期特権を一方的に剥奪することになり、原告らに対しては、その合理性を欠き、公序良俗に違反して無効であると主張するので、検討する。
3.賞与は、労働の対償としての性格を有するものであるが、他方、生協事業の状況及び勤務状態を考慮して支給されるものとされ、その算定には、賞与対象期間中の勤務状態等に関する人事考課が不可欠であることからすると、賞与は、収益配分や功労報奨としての性格をも併せ特つものであり、個々の労働に応じて支給される通常の賃金とは異なり、賞与対象期間中の職員の勤務状態等を全体として評価した上で、支給されるものであるということができる。
4.このような賞与の性格に合致する継続勤務要件は、一定の合理性を有するものであり、賞与の支給基準を明確に定める必要性があることをも考慮すると、継続勤務要件を充たさない原告らとの関係で、継続勤務要件が公序良俗に違反して無効であるとはいえない。
5.もっとも、定年退職者等退職日を任意に選択できない職員に対して、継続勤務要件を充たさないことを理由に、労働の対償としての性格を有する賞与を支給しないのは公序良俗に違反するとの議論もあり得るところであるが、原告らは、自らの意思に基づいて本件制度の適用を申請し、退職したものであり、本件制度の適用を申請せずに、継続勤務要件を充たして賞与を受けることもできたのであるから、退職日を任意に選択できなかったとはいえない。
6.本件制度による退職日が平成12年4月15日と定められ、継続勤務要件を充たして退職することはできなかったのであるが、これは、被告生協とその職員を代表すると推認される労働組合との間で、本件協定が定められたものであるから、被告生協が原告らの賞与に対する期特権を一方的に剥奪したとみることはできない。
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